復活のSF
20年ぶりの純正システムフォントSan Francisco
/
1984年、Macintoshの当時 “System” と呼ばれたOSにはスーザン・ケア女史による都市名を冠したビットマップ フォントが搭載されていた。Monaco, New York, Geneva, Chicago, Athens, CairoそしてSan Franciscoだ。MonacoやGenevaは現在のOS Xにもその特徴を踏襲した同名のTrueTypeフォントが同梱されており、アイコン以外にも彼女が現在のUIグラフィックに与えた影響は少なくない。
San Franciscoは彼女の制作したフォントの中でも特に個性的なフォントで、当時のMacintoshのソフトウェア等に使用されて、スティーブ・ジョブズが行った最初のデモにおいても披露されたものである。
しかし時代の流れとともにSan Franciscoはその役目を終え、TrueType化されることはなくビットマップ フォントのままその使用の歴史の幕を閉じることとなった。
しかし2015年、そのSan Franciscoが新たなデザインチームによる設計の元、その名を引き継ぎアップルの20年ぶりのシステムフォントとして復活を遂げた。OSのシステムフォントとして最初に採用されることになったのは、そうApple Watchだ。
OS X YosemiteのデフォルトのシステムフォントとなったHelveticaと、ドイツの工業規格フォントとしておなじみのDINの流れを組む書体である。San Franciscoという名称が明らかになる前は開発者コミュニティの間でまさしく “DINvetica” と呼ばれていたフォントだ。
アップルが提供している開発環境Xcode 6.3(正式リリース版)にはApple Watch用のSDKであるWatchKitが含まれ、このSan Franciscoフォントも内包されている。ちなみにOpenTypeフォントであるためファイルを抽出すればOS Xのシステムにもインストールは可能だが、インストールを行っても名前の先頭に “.” がつき不可視フォントの扱いとなるため、Photoshop等のフォントパネルには表示されず実際には使用できない。
以下、フォント管理ソフトのプレビューエリアをキャプチャした画像をベースに比較したものとなっている(ウィンドウ幅1,010ピクセル以上で等倍表示となる)。
DINとHelveticaとの類似性
DIN, San Francisco, Helveticaを同じポイント数・同じウェイトで比較を行った。これによれば
- 全体としての印象はHelveticaだが要所にDINのフレーバーが認められる。
- San FranciscoはDINのウェイトに近く、Helveticaよりもひと回りウェイトが軽い。
- しかし T など一部のキャラクタを除いて文字幅やエックス ハイトはHelveticaに近い。
- e や c などの開口部の広さはDINだが、止めや払いの処理はHelveticaとなっているなど、両者を兼ね備えた形状になっているキャラクタも存在する。
- 一方、i や . のドット部分が丸め処理となっていたり、Th を見るとTのキャップラインが一段下がっている、eの底が突き抜けずベースライン上に位置するなどの独自性も散見される。
という特徴が確認できた。
3タイプのSan Franciscoとウェイト
San Franciscoには2種類のSans-SerifとRoundedが含まれ、San Francisco TextとSan Francisco DisplayがSan-Serifに相当する。それぞれ複数のウェイトを含むが、TextとDisplayではウェイトの数が異なる。
TextとDisplayの違い
公開されているヒューマン インターフェース ガイドラインの定義に従えば、19pt以下の場合にはSan Francisco Textを使用しそれ以上はSan Francisco Displayを使用する。ただしこの2種のフォントはDynamic Typeの関係にあり、デフォルトのスタイリング設定を適用する場合には意識せずとも20ptを境にそれぞれ適切なタイプが自動的に選択される仕組みとなっている。
TextとDisplayの違いは一見してそのカーニングの差が自明で、19ptよりも小さなサイズで使用されるTextは読みやすいように字間が広めに設定されている。しかしそれ以外にも
- i のドット部分がTextの方がDisplayよりも大きく、またバーから若干離れた位置に置かれている。
- c や e の開口部がTextの方がDisplayよりも広い処理がされている。
など、小さなサイズでレンダリングされた際により視認性を高める細かな工夫がなされていることが分かる。またSan Francisco Textは小さなポイント数で使用されることが前提であるため、隣接するウェイトとの差異が判別しにくいUltralight・Thin・Blackは省かれている。
Say hello to San Francisco.
以上を踏まえ、Apple Watchで初めてSan Franciscoを目にすることになるのだろうと楽しみにしていたが、それに先駆けて思わぬところでSan Franciscoのリリースが開始されていた。先日のアップルのKeynoteで発表されたばかりの、MacBook (12inch, Early 2015)のキーボードの刻印にSan Franciscoが採用されているのだ。これにより、今後OS等のソフトウェアだけでなくハードウェアのデザインにおいてもSan Franciscoを用いていく方針が明らかとなった。
今のところアップルは製品やウェブサイト上ではMyriad, Lucida Grande, Helveticaそして各言語独自のフォントを使用しており、ブランディングも含めた統一をどのようにして図っていくのかが興味深い。