マナローラ

チンクエ・テッレを訪れる

/ Manarola, Italia / Text by

フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅からピサを経由して、列車に揺られること三時間半。たどり着いたリグーリア海岸の切りたった崖壁に、沢山のカラフルな家々がしがみつく・・・・・ようにして立ち並ぶ五つの村が存在する。モンテロッソ/アル・マーレ/ヴェルナッツァ/コルニリア/マナローラ/リオマッジョーレ。イタリア語で五つの土地を意味する「チンクエ・テッレ」だ。

インターネット上で見た一枚の写真がきっかけで、つい行きたい、と思ってしまったのだから仕方がない。ゴールデンウィークの休暇を利用して、旅程の中になんとか詰め込む形で行く機会をつくったのだった。気持ちの上ではメインであったものの日本からイタリアの片田舎へのアクセスはなかなかの長旅となるため、そのほかの予定も踏まえるとフィレンツェからの日帰り旅行にさらざるを得なかったのだが、行って本当に良かったと思える場所だった。

元々要塞都市として築かれた村々は、硬く険しい岩盤の上に成っているという土地の性格もあり、近年になって列車が引かれるまでは外部から陸路によるアクセスは困難を極め、村々の往来は船で行き来をしていたような閉ざされた地域だ。そんな場所に足を踏み入れることに心配はあったが、世界遺産に指定されてから十六年以上が経過し近隣諸国からはすっかり観光地として定番化をしているようで、ヨーロピアンの観光客はとにかく多くみかける。一方、「地球の歩き方」に掲載されていないせいか日本人と思われる観光客はほとんど見かけず、海外であまりに多くの日本人を見るとうんざりしてしまう天の邪鬼な自分にはそれだけでなかなか落ち着ける場所なのであった。

小さな村と言えど目抜き通りはヨーロピアンたちがひしめきあう盛況っぷりを見せている。しかし一歩路地へ入れば喧噪は急速に遠ざかり、そこには穏やかな時間が佇んでいる。はたして立ち入ってよい場所なのかそれともプライベートな場所なのか?駆け引きするように見定めながら路地に足を踏み入れていく。こうした立地の岸壁に打ち寄せる波は、バッシャーンとさぞ大きな波しぶきと音を立てるのだろうと思っていたが、その日の地中海は多量の水をたたえる湖であるかのように大人しく、道を歩いているときに聞こえるのは自分の足音や海鳥の鳴き声、たまに聞こえてくる村人の話し声や生活音だけ。

個人的に「観光地」と呼ばれる街に面白みを感じるのは、このようにして観光客の集まる場所と、それ以外の場所で街がまったく異なる表情を見せるところにある。オンとオフ、表と裏、緩急。そしてそのオフの部分に少しだけ顔を覗かせてもらうことが、自分にとっては旅の醍醐味の一つとなっている。興味・好奇心・緊張と遠慮のバランスを取りながら進んでいくのは、綱渡りのようでもある。そして、誰かと出会ったときにお互いにちょっぴり勇気があるのであれば、そこからコミュニケーションが始まる。言葉が通じればより楽しめるのは言わずもがなだが、そうでなくとも互いにコミュニケーションを楽しもうとする気持ちがあったのなら、それはそれで楽しいものだ。そしてどこに行っても子供たちとのふれあいは面白い。もしかするとカメラを取り出してその場の光景を収めたくなるかもしれない。しかしそこをちょっとこらえてコミュニケーションに集中してみると、思ってもみなかった展開が起こることもある。もう食べてしまったのだが、今回は地元の少年がどう考えても自然的でない、真紅に染まった色の飴を分けてくれた。おいしかったけどね。

必ずしも好感触な反応ばかりを得られるわけではなく、時には少し寂しい想いをするかもしれない。だが、挨拶そのものを嫌と感じる人はどこにもいない。日本で「こんにちは」を言うときよりも少しだけ陽気に、言ってみるといい。「ボンジョルノ。」

フィレンツェからのアクセス

マナローラをはじめ、チンクエ・テッレへのアクセスはフィレンツェからはさほど難しくない。もしもフィレンツェに滞在をし一日でも自由になる時間があるのであれば、自分がしたように早起きをして向かえば日帰り旅行ででも楽しむことが出来る。サンタ・マリア・ノヴェッラ駅朝七時の列車に乗れば、リオマッジョーレに十一時台には到着でき、地元の魚料理の昼飯を楽しむことも出来る。

フィレンツェ サンタ・マリア・ノヴェッラ駅
Firenze S. M. Novella
 ↓
〈経由〉ピサ セントラーレ駅
    Pisa Centrale
 ↓
〈乗換〉ラ・スペツィア セントラーレ駅
    La Spezia Centrale
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マナローラ駅
Manarola

Google Map

フィレンツェからは「ラ・スペツィア」行きの列車のチケットを購入すれば良い。サンタ・マリア・ノヴェッラ駅の西側、二番ホームから列車は発車する。直通の場合もあるが、多くの場合ピサで乗り換えが必要になることをお忘れなく。ピサにはピサ セントラーレ駅とピサ サン・ロッソ駅の二つがあるが「セントラーレ」の方はターミナル駅となっているため、ここで乗り換えれば間違いがない。また、チケットには経由駅としてエンポリ駅の名前が印字されているが、これはあまり気にする必要はなく、ピサ セントラーレまで行ってしまってかまわないはずだ。

片道三時間弱。けして近くはないが、のんびりした田舎が好きなら本当におすすめ。日帰り旅行ではどうしても慌ただしくなるので一泊はしたいところ。

村間の移動

ラ・スペツィア駅からチンクエ・テッレに向かう列車がそのまま五つの村を結ぶ。これ以外にバスや、村々を結ぶフェリーを利用する方法もある。いずれも一時間に一・二本の便数になると思われるので、時間には余裕を持って移動しよう。とくに進む方向には注意。逆に引き返そうにも、そんな本数だから大きく時間をロスしてしまいかねない。一日旅行なら滞在する村を二つくらいまでに抑えるとゆったりした時間を楽しめるはずだ。

また、リオマッジョーレとマナローラ間は愛の小道Via dell’Amoreと呼ばれる海岸遊歩道があり、所要時間にして約三〇分、一キロメートルほどの道を地中海を間近に抱えながら楽しむことができる。が、残念ながら少なくとも2013年5月現在は崖崩れによる被害により通行禁止となってしまっている。

Italy ’13” on Flickr
taken with SONY DSC-RX1.