首都圏外郭放水路潜入レポート

/ 埼玉県春日部市上金崎720 / Text by

10年前に完成して以来、一度は見学したいなと思い続けていた「首都圏外郭放水路」にようやく訪れることが出来た。

首都圏外郭放水路は埼玉県春日部市にある、中小河川から溢れた水を取り入れる流入施設です。地下で貯水したり江戸川へと放水を行うことで周辺地域を水害から守る施設で、それそのものが一級河川の指定をされている。中でも「調圧水槽」はこの施設を象徴する構造物となっておりその様子から「地下神殿」と呼ばれることもある。

湛水時以外は予約を行えば見学をすることが可能ですが穴場の観光スポットとしての人気が高く、応募して当選して初めて予約が可能となっており、見学できる時間も1時間限定となかなかハードルが高い。ところが、11月14日の土曜日に年に一度(?)開催されるという「特別見学会」というイベントがあることを知ったので早起きして行ってきた。開催時間内にさえ行けば予約無しで、しかも時間の制限も特に無く好きなだけ滞在でき、普段は見学することの出来ないエリアまでオープンにするというまさに特別な日。

庄和排水機場

目指すは調圧水槽の出入り口が存在する春日部の庄和排水機場。10時からの開場より少し早い9時半頃に周辺に来られたが、特別見学会開催時に限り会場に駐車スペースは無いとのことで近くの庄和総合公園の駐車場(無料)に停めさせてもらい、徒歩で向かった。同じ目的と思われる人たちの列が出来かけていたのでそれに従って歩き、迷うことなく15分程度で到着。

庄和排水機場。特別見学会のみで見ることができるポンプ室は建物内にある。 (Shot on DSC-RX100M3)

会場には既に多くの人が詰め掛けており、列に並んで待たされることになった。10時から開場の予定だったところ人が溢れそうになったため20分早く開場をしたらしいが、自分が行ったタイミングでは列が庄和排水機場の建物をぐるっと一周取り囲み、結局40分近く待たされることになった。自分が見学を終えた時には最後尾がどこにあるのか分からないほどの大盛況で、少なくとも2時間半〜3時間待ちというアナウンスで、イベントの開催時間自体は15時までだったが待ち時間の都合で13時以降に並んだ人は入場が出来なかったそうです。開場時刻に合わせて向かうのがおすすめ。

学校の屋上にあるような階段への出入り口をくぐると、すぐに広がる大きな螺旋階段。 (Shot on DSC-RX100M3)

入り口は「えっ、これですか」というほどあっさりしており地下に巨大空間が広がっているとは思えないが、ドアをくぐって一歩入るとすぐにそれに相応しい螺旋階段が待ち構えていた。段数にして116段。皆はやる気持ちを抑えつつ地下18mの世界へと降りていく。階段を下りきった先、コンクリートの低いゲートを抜けるとそれはあった。

調圧水槽

調整水槽の中央から眺めた様子。巨大な人工の柱が立ち並ぶ様子は、サグラダ・ファミリアの内部の印象に少し通じるものがある。 (Shot on DSC-RX100M3)

圧倒的という言葉が相応しい。

長さ177m × 幅78m。調圧水槽のちょうど真上にはサッカーのフルコートが広がっているが、それを大きく上回る空間に59本もの巨大なコンクリート柱が林立し、その1本あたりの大きさは幅2m × 奥行き7m × 高さ18mで重量は500トンにもなる。

その様相はバルセロナのサグラダ・ファミリア内部を想起させる面あり、イスタンブールの地下宮殿を思い出させる面もありましたが、それらをはるかに上回るスケールに遠近感が狂うような感覚を味わいました。

調圧水槽の長辺を端から眺めた眺め。 (Shot on DSC-RX100M3)
柱は円柱ではなく角丸の直方体の形状。 (Shot on DSC-RX100M3)
奥まで見通せない闇。Impeller が配置される空間へと続く。 (Shot on DSC-RX100M3)

しかしこの巨大な水槽も外郭放水路全体から見ればその一部の空間でしかありません。これよりさらに深い地下50mには全長6.3kmにも及ぶ直径10mのトンネルが存在し、溢れた水を取り込む深さ70mの立坑にはスペースシャトルを発射台ごと収めることができるそうなのですが、これが5本も存在します。

1本目の立抗は調圧水槽に隣接しているため穴の手前まで近づくことができるのですが、マトリックスのザイオンさながらの迫力が感じられた。外郭放水路全体を流れる水量を考えると途方もない。ロボット、怪獣、なんでも収められそうな秘密基地みたいな巨大な空間はですね、男子にとって正義です。

地上から貫いてきた立抗と調圧水槽の接合部。写真では見難いが直径30mの大穴がぽっかりと空いている様には恐怖を覚える。 (Shot on DSC-RX100M3)

Impeller

通常時の見学会では見られない施設として、Impellerインペラ が公開されていた。調圧水槽に計4台が設置されており、これで溜まった水を巻き上げ江戸川へと放水する。視界の範囲内に収まるものが見られて若干落ち着くが、これでも大人7〜8人が肩を組んで円陣を組んだ程度の大きさはある。この Impeller は航空機用のガスタービンを改造したモーターで回され、一台で毎秒50立方メートルの水を巻き上げるそうな。凄いですね(棒)。

毎秒50立方メートルの排水が可能な巨大な Impeller。 (Shot on DSC-RX100M3)

というわけで、巨大建造物に胸が踊る方には社会科見学として本当におすすめ。特別見学会に参加すれば、予約や時間の制限なく見学することが可能ですが、その一方で係員の方の説明はあまりじっくり聞くことは出来ず、また撮影目的の場合には人物が映らない写真の撮影等は極めて困難です。特別見学会はかなりの混雑を見越してはいましたが、内部が巨大なこともあり渋谷の交差点ほどの混雑は感じずに割と落ち着いて見ることが可能でした。

ちなみに長い階段の上り下りや一部内部に滑りやすい場所があるという安全上の配慮から、階段の上り下りが困難な年配の方や、小学生未満のお子さんは見学不可となっています。また、中学生以下の場合には保護者の同伴が必要なことから大人の社会科見学に向いてそうな代物と言えます。